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金沢地方裁判所 昭和26年(ワ)156号 判決

原告 東義雄 外二名

被告 北陸鉄道株式会社

主文

被告が昭和二十五年十二月二日附で原告西田常吉に対し為した解雇の意思表示は無効であることを確認する。被告は原告西田に対し参拾九万壱千百七拾円を支払いせよ。

原告西田常吉のその余の請求及び原告大垣倬一、同東義雄の各請求は孰れも之を棄却する。

訴訟費用は之を三分し、その一を被告の負担とし、その余は原告大垣倬一及び同東義雄の負担とする。

本判決は第二項に限り、原告西田常吉に於て仮に執行することができる。

事実

原告ら訴訟代理人は、

「(一)被告が昭和二十五年十二月二日附で原告らに対し為した解雇の意思表示は無効であることを確認する。(二)被告は原告らに対し昭和二十六年一月以降毎月二十五日に夫々別紙目録記載の割合による金員を支払いせよ。(三)被告は原告らを就業せしめよ。労働条件につき従前の待遇を不利益に変更してはならない。(四)訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び(二)項につき仮執行の宣言を求め、請求の原因として次の通り陳述した。

被告は地方鉄道事業、軌道事業及び旅客自動車運輸事業を営む株式会社であり、原告らはいずれも昭和二十二年二月以前から被告会社と期間の定めなく雇傭され、爾来従業員として勤務していたものであつて、北陸鉄道労働組合(以下単に「北鉄労組」又は「組合」と略称する)の組合員であつたが、昭和二十五年十二月二日附で被告会社から解雇の通告を受けた(以下「本件解雇」と称す)。

然しながら、(一)被告会社が原告らを解雇したのは、原告らが共産主義者で日本共産党(北鉄細胞)員であることを理由とするものであつて、これは憲法第十四条、第十九条、第二十一条、労働基準法第三条及び昭和二十五年九月二十七日被告会社と北鉄労組間に締結された労働協約(以下単に「労働協約」と略称する)の第六条(信条等による差別扱禁止)に違反し、また民法第九十条に該当するから本件解雇は無効である。(二)仮りに然らずとするも被告会社が原告らを解雇したのは原告らが組合の役員又は委員として活溌な組合運動をしていたからである。被告会社はこれら活動分子を組合から排除し組合運動の進展を阻止せんとして、所謂「レッドパーヂ」に藉口して本件解雇を実施したものである。然らば明らかに原告らが組合員であること、又は組合の正当な行為をしたことの故を以て解雇したものであり、これは労働組合法第七条第一号に違反する不当労働行為にして本件解雇は無効である。(三)仮りに然らずとするも、本件解雇は労働協約第六十九条(解雇協議協定)に違反するから無効である。同条は「会社は従業員を解雇しようとするときはその基準、員数、条件等、解雇の基本的事項について組合と協議しなければならない」と規定しているが被告会社は本件解雇を実施するに先だち組合と右協議を十分尽していない。殊に次の如き交渉経過((1)乃至(5))の事実に徴しても明かなように、組合は被告会社に対し解雇基準を具体的に摘示して欲しいと再三要求したにも拘らず之を示さなかつたのである。従つて右の協議を十分に尽したものとはいい得ない。即ち、(1)被告会社は昭和二十五年十月二十日組合に対し人員整理を行う旨及びこれにつき団体交渉を行い度い旨を申入れて来た。(2)翌二十一日団体交渉が開かれ、被告会社は組合に対し「人員整理実施要綱」なる文書を示し、原告らを含む従業員十九名の解雇につき諒解を求めたのであるが、右要綱には解雇基準が具体的に示されていなかつたので、組合は労働協約第六十九条に基ずく協議事項として具体的解雇基準の明示を要求したが、被告会社は本件解雇は協約外の措置であると主張して組合に対し同月二十三日正午に文書を以て正式回答をなすべく要求し、当日の団体交渉は打ち切られた。(3)組合は同年十月二十三日緊急委員会を開き、今次人員整理問題に関する基本方針を決定、之に基ずく回答書を被告会社側に手交し、重ねて具体的解雇基準を指摘するように要求したが、被告会社はそれ以上の団体交渉に応ぜず、同日解雇の実施を該当従業員及び組合に通告した。(4)そこで組合は同年十月二十四日石川県地方労働委員会(以下単に「地労委」と略称する)に調停を申立て、その後被告会社と組合との間に調停係属中は解雇の実施を保留することの諒解が成立した。而して同年十一月二十五日地労委より調停案が提示されたので組合は同月三十日臨時大会を開催し、右調停案の受諾及びこれに伴う組合としての闘争の終結を決定した。(5)而して被告会社も右調停案を受諾したのでこの調停案に基ずき交渉がなされた結果、同年十二月二日交渉は妥結し、双方当事者間に「本件解雇に関する覚書」が取り交され、解雇が実施されるに至つたものである。

次に原告らが被告会社から解雇の通告を受けた昭和二十五年十二月二日当時に於て、各原告の賃金(毎月二十五日支払の月給)の割合は別紙目録(一)の通りであつたが、被告会社は昭和二十六年一月以降原告らに対し賃金の支払をしていない。尤も原告らは同日以降被告会社の労務に従事していないが、これは前示の如く被告会社が原告らを不当に解雇したことによつて就業が妨げられているものであるから、原告らは被告会社に対し昭和二十六年一月分以後夫々右割合による賃金の支払を求めると同時に今後被告会社が原告らを就業せしめ、また労働条件につき従前の待遇を不利益に変更しないことを求めるものである。

被告会社の主張に対しては次の通り述べた。

被告会社は、原告らは被告会社の企業を破壊する虞れのある者だとして各原告別に具体的行動を挙示しているが、その事実のうち(イ)及び(ロ)項につき原告らはいずれも日本共産党(北鉄細胞)員であつて、同細胞の機関紙「レール」及び「細胞ニユース」を頒布したこと、並びに「調停案の本質を見極め目的完遂のため闘いましよう」なる文書を頒布したことはいずれも認める。然しながらこれら行動は労働協約第八十六条に基ずいて同条の保障する政治活動として行われた正当な行為であつて、すべて休憩時間か、就業時間外において為されたものである。またこれらの内容に於ても被告会社の主張するような破壊主義的なものを含んでいない。その余の挙示事実は全て否認する。(立証省略)

被告訴訟代理人は、

「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」

との判決を求め、答弁として次の通り述べた。

被告が地方鉄道事業、軌道事業及び旅客自動車運輸事業を営む株式会社であること、原告らがいづれも昭和二十二年二月以前から被告会社に期間の定めなく雇傭され、爾来昭和二十五年十二月二日迄従業員として勤務していたこと、原告らが同日当時北鉄労組の組合員であつたこと、及び被告会社が同日附で各原告に対し解雇の通告をなしたこと等は認める。而して本件の整理解雇は専ら被告会社の企業防衛の見地から実施されたものであつて、この解雇基準は「人員整理実施要綱」を以て明かにしてある。

第一、被告会社が原告らを解雇したのは、共産党員の破壊から被告会社の企業を防衛するためとつた緊急措置であり、これは連合国最高司令官の所謂「レッドパーヂ」の指令に基ずくものであつて、日本国憲法をはじめ一切の国内諸法令及びこれに基ずく労働協約等の解雇の自由に対する制限規定の拘束を受けるものではない。即ち、連合国最高司令官マッカーサー元帥は、(1)昭和二十五年五月三日の憲法記念日に当り日本国民に対し別紙目録(二)記載の如き内容の声明を発し、(2)同年六月六日、同月七日、同月二十六日及び同年七月十八日の四回に亘り吉田総理大臣に宛てて別紙目録(三)乃至(六)の如き内容の書簡を発し、破壊煽動的活動を通じてその政治目的を達成せんとする共産主義者及びその同調者を公共的な事業、その他の部門から追放すべきことを命じ、また(3)総司令部経済科学局エーミス労働課長は昭和二十五年九月二十六日私鉄経営者協会を招集し、私鉄企業から破壊主義的赤色分子を追放せよと示唆したのである。而してこれら声明等は連合国最高司令官の指令として日本国民及びあらゆる政府機関等を拘束し、而も憲法をはじめ国内諸法令等の一切に優越する法規範たる効力を有するものである。

第二、仮りに本件解雇が憲法以下の国内諸法令及びこれに基ずく労働協約等の適用を受けるものであるとしても、本件解雇は左の理由からいずれもこれら国内諸法令等に抵触するものではなく、原告らの主張するような無効原因は存しない。即ち、

(1)  日本共産党が前示マ書簡等に指摘されているように暴力革命を政治目的とするものであること、従つてその性格が破壊主義的であること、また同党々員が党の政策や規約等に忠実に従つて行動するものであることは公知の事実であるばかりか、同党の細胞の任務については千九百四十六年二月の同党の大会に於て決定された党規約第三十八条に、(一)工場新聞へ指導を保障すると共に党の標語及び決議を実行するため大衆中において宣伝煽動的並びに組織的行動をすること。(二)新党員の採用並びにこれに政治的教育を施すこと。(三)地区及び地方委員会又は中央委員会に対し、その一切の実際的活動において協力することと規定されておる。而して原告らは同党(北鉄細胞)員であるから右規約の趣旨に従つて同党の政治的達成の為に被告会社事業所内に於て企業に有害なる党のフラクション活動をなしていること。従つてまた今後ともなす虞れがあることは当然の帰結である。このことは同党北鉄細胞機関紙「レール」やその後継紙である「細胞ニユース」の記載に徴しても明瞭である。即ち「レール」は、(一)日本共産党の考え方や政策を被告会社の労働組合員に対し周知徹底せしめる機関紙であり、且つ同組合員に対し積極的に入党をすすめ、入党の上は党費を納入すること、党機関紙「アカハタ」を読むこと、及びなにらかの党活動をすることを勧説しており、(「レール」第一号の「レールの読者の皆様へ」「共産党に入党しましよう」なる記事)、(二)また共産主義革命の刻々に近ずくことを祈念し被告会社従業員に対し他の勤労大衆と共に各種の経済闘争又は政治闘争をなすよう宣伝、煽動すると共に、被告会社の企業についてもこれが経営者の打倒及びその人民管理を主張しており、(「レール」のうち特に第十一号、第十二号及び第十四号の記事)、(三)更に屡々被告会社の組合事務所内等に於ける細胞会議又は細胞研究会の開催を報知しているが、(「レール」第四乃至第七号、第十二号、第十三号の記事)その他「レール」や「細胞ニユース」の記事は、(四)被告会社と従業員とを離間せしめ、徒らに争議を煽動し、事実を歪曲して被告会社の経営者等を中傷し、組合員に不安と動揺を与えるような傾向が顕著である等、北鉄細胞の被告会社企業内に於ける活動方針を明示している。のみならず原告らの言動には具体的に右方針に従つてなしたものであることの明かなもの、即ち、被告会社の企業を破壊する虞れのあるものがあつたのである。その主要なるものを挙示すると、(イ)原告らは「レール」「細胞ニユース」を編集発行(記事の取材、執筆及び同紙等の頒布を含む)し、同機関紙を通じて共産党活動の一端として被告会社等を何らの根拠もなく誹謗してその打倒を呼び、また激烈な語辞を以て破壊的行動へと他の従業員を煽動して被告会社と従業員との間をことさらに離間せしめようとした。殊に原告大垣はこれら機関紙の編集発行責任者として名前が掲記されているし、原告東は通信員としてその名前を明かにして記事を執筆している外、原告西田についてはその氏名が明確に表示されているものはないが同原告が北鉄細胞員である以上これら機関紙の編集発行に関与していることは当然のことである。(ロ)原告らは昭和二十五年四月十三日附日本共産党北鉄細胞名義の「調停案の本質を見極め目的完遂のため闘いませう」なるアヂビラを頒布し、同文書を通じて地労委を支配階級の出先機関だと極めつけ組合員に対し地労委には期待をかけることなく飽く迄もストライキを強行すること、及びストライキ決行は他の勤労者、農民等の広汎なる大衆との共同闘争を展開すべきであると煽動し、以て組合員間に不安と動揺を醸成し、被告会社と組合とを離間せしめようとした。(ハ)原告らは組合事務所内等に於て北鉄細胞員として屡々細胞会議又は細胞研究会なるものを催し、共産党活動たる破壊主義的方法等を協議した。(ニ)原告東は昭和二十五年浅野川線夏期増送(例年七月下旬丑の日になされて来た終夜運転)に反対し、不当に夜食手当を要求した。(ホ)原告大垣は被告会社に於て決定した市内線浅野川大橋停留場及び春日町停留場の増設計劃について理由なく反対した。(ヘ)原告大垣は昭和二十五年六、七月頃完全検車と称して専門の検車係によつて検車を受け運転が許された車輌について迄も難癖をつけて乗車を拒否し、また他の乗務員をして拒否するよう無闇に煽動し、以て電車の運行状態を悪化せしめて交通を阻害した。(ト)原告大垣は被告会社の決定した乗車券の車内売の実施について乗客の利便も無視して之に反対した。(チ)原告大垣は交通安全のため電車の扉を閉めて運転せよとの警察及び被告会社の指示に反対した等の事実である。叙上の通りであるから被告会社が原告らを解雇したのは単に原告らの抱懐する共産主義思想の故だけではなくあく迄も輸送という公共の福祉に重大な関係を有する被告会社の企業を破壊する虞れのあるような原告らの言動の故である。

(2)  被告会社が原告らを解雇したのは前述した如く原告らが何れも日本共産党(北鉄細胞)員であるということの外に、これらの者のなす破壊的な外部行動を危険として被告会社の企業防衛の立場からこれを排除したものであり、決して原告らの信条、思想又は良心そのものを問題としたものではないから憲法第十四条、第十九条に違反するものではないし、また日本共産党の破壊主義的政策及びこの政策に従つてなしていると認められる原告らの各種の言動等に照らし、原告らが憲法第二十一条の保障を援用することは何らの論拠もないものである。従つてまた本件解雇が労働基準法第三条及び労働協約第六条等の信条等による差別扱禁止の規定に違反することもないし、民法第九十条に該当することもない。

(3)  本件解雇の理由は前述の通りであり、決して原告らの正当な組合活動を理由としたものではない。従つて偶々原告らが何れも組合の役員であり、又組合の活動分子であつたとしても本件解雇は決して労働組合法第七条第一項に違反する不当労働行為となるものではない。

(4)  本件解雇の実施に当り被告会社と組合間で為した交渉経過は原告ら主張の(1)乃至(5)の通りであるが、この事実からも明かなように被告会社は組合に対し「人員整理実施要綱」を提示して以来屡々協議を重ねた結果、昭和二十五年十二月二日双方とも了解して「本件解雇に関する覚書」を取り交し組合も原告らの解雇を承認したのである。また被告会社が原告らを含む被解雇該当者が解雇基準に該当するとの具体的事実を摘示せよとの組合の要求に応じなかつたのは、組合が被告会社の示した抽象的な解雇基準(人員整理実施要綱に示されている)に対してすら該当者は一人もいないと主張して譲らないので、それ以上具体的に解雇基準に該当する事実を各別に摘示する必要はなかつたからである。以上の通りいずれにしても本件解雇に際し被告会社は組合と十分協議しており、労働協約第六十九条(その内容は原告ら主張の通りである)に違反していない。

次に本件解雇時に於ける原告らの月給(支払日毎月二十五日)の割合が別紙目録(一)の通りであることは認めるが、既述の通り被告会社が原告らを解雇したことは毫も違法、不当なものではないから解雇後原告らの就労を拒否していることは当然であり、従つて昭和二十六年一月分以降の賃金の支払請求にも応ずることはできない。(立証省略)

理由

(1)被告が地方鉄道事業、軌道事業及び旅客自動車運輸事業を営む株式会社であること、(2)原告らが執れも昭和二十二年二月以前から被告会社に期間の定めなく雇傭され、爾来昭和二十五年十二月二日迄従業員として勤務し、また北鉄労組の組合員であつたこと、(3)原告らが孰れも被告会社から昭和二十五年十二月二日附で解雇の意思表示を受けたこと、及び(4)原告らが当時孰れも日本共産党(北鉄細胞)員であつたことは当事者間に争がない。

被告会社は本件解雇は連合国最高司令官の所謂「レッドパーヂ」指令に基ずいて共産党員である原告らに対し実施されたものであるから、憲法をはじめ一切の国内諸法令及びこれに基ずく労働協約等の解雇の自由に対する制限規定に拘束されないと主張するので先ず被告会社の右に謂う指令が如何なるものであるかについて審按するに、連合国最高司令官たるマッカーサー元帥が昭和二十五年五月三日日本国民に対し別紙目録(二)記載の如き内容の声明を発したこと、並びに同年六月六日、同月七日、同月二十六日及び同年七月十八日の四回に亘り吉田総理大臣宛に夫々別紙目録(三)乃至(六)の如き内容の書簡を発したことは当事者に於て明かに争わないところである。そこでこれらについてその内容を逐次検討してみるに、(一)「一九五〇年五月三日憲法記念日にあたり連合国最高司令官マッカーサー元帥から日本国民に出された声明」は当時に於ける共産主義運動に対する日本国民の心構えについて警告をし、これをいかに国内的に処理すべきかを指摘しているに過ぎない。(二)「一九五〇年六月六日の吉田総理大臣宛の書簡」は日本の民主主義的再建のための障碍除去のために日本共産党中央委員衿田里見外二十三名全員を公職から追放すべく行政上の措置をとることを日本政府に対し指令している。(三)「一九五〇年六月七日の吉田総理大臣宛の書簡」は日本共産党機関紙「アカハタ」が共産党内部の最も過激な不法分子の代弁者の役割を演じて来たとして、同紙の編集政策に対して責任を分担している主導者たる相川春喜外十六名を追放すべく行政上の措置をとることを日本政府に対し指令している。(四)「一九五〇年六月二十六日の吉田総理大臣宛の書簡」は六月七日附の書簡にもとずく配慮にも拘らず「アカハタ」が依然煽動的行動を続けているとして同紙の発行を三十日間停止させるために必要な措置をとることを日本政府に対し指令している。(五)「一九五〇年七月一八日吉田総理大臣宛の書簡」は共産主義者が言論の自由を濫用して「アカハタ」及びその後継紙を通じて無秩序への煽動を続けているから、さきに同紙の発行に対し課せられた停刊措置を無期限に継続することを日本政府に対し指令していることは明らかであるが、これら諸指令、声明が被告会社のような民間企業から迄も共産主義者及びその同調者を追放すべき措置をとることを日本政府に対し指令していると解することはできない。また当裁判所の真正に成立したと認める乙第二号証によれば昭和二十五年九月二十六日連合国総司令部経済科学局エーミス労働課長が私鉄経営者協会に対する談話に於て私鉄企業から闘争的な共産主義者を追放すべきであると説いてはいるが、同時に共産党員であることのみを以て排除するものでないことを明言していることが認められるから右談話に基いて単なる共産党員を排除し得ないものといわなければならい。

然らば右書簡、声明及び談話を以つて私鉄企業内から共産主義者を追放せよとの最高司令官の指令であるとの被告会社の主張は採用することはできない。

次に被告会社は原告らを解雇したのは原告らが共産主義者であるというだけではなく被告会社の企業防衛の見地からこれを為したものであると主張し、成立に争ない乙第八号証及び証人内山光雄、同北敏、同見本博儀、同竹下佐一郎の各証言を綜合すると、被告会社が本件の整理解雇を実施したのは公益的性格を有する被告会社企業内から企業の円滑な運営を阻害する虞れのある者を排除しようとしたもので、その解雇基準は被告会社の企業防衛(以下「本件解雇基準」又は「本件解雇理由」と称す)という点に置かれ、共産党員並にその同調者であつても解雇の対象とならなかつたものがあると同時に共産党員並にその同調者でなくても解雇の対象となつたものがあつたことを認めることができる。そこで進んで原告らが被告会社の企業の円滑な運営を阻害するような者かどうかを各原告別に逐次検討する。

(一)  原告大垣倬一について、

当裁判所の真正に成立したと認める甲第四、第五号証及び証人北敏、同見本博儀、同渋谷外茂二の各証言を綜合するに、(1)日本共産党北鉄細胞機関紙「レール」第十二及び第十四の各号では被告会社の経営等について相当の根拠も示さず之を非難し、企業の一切を「人民管理」とすべきであるとしている外、第八、第九、第十四の各号では必要以上に激越な言辞を以て政府を非難し之に対する暴力主義的抗争を煽動する虞れがあるような記事を掲載しており、而もこれらには孰れも編集発行人として「日本共産党北鉄細胞大垣倬一」との記載があるので、原告大垣は編集発行人として右記事の一切について責を負うべきものであること、(2)昭和二十五年夏頃被告会社取締役会の決定に基ずく金沢市内線浅野川大橋停留場の復活と春日町停留場の新設及び乗車券の車内売の実施につきいずれも乗務員の労動強化(斯る理由だけでは正当な反対理由ありとは認め難い)であるという以外さしたる理由も主張するのでなく主導的立場に立つて反対し、その実施を徒らに遅延せしめたこと、(3)昭和二十五年六、七月頃組合の正当な機関を通じてではなく勝手に所謂「完全検車」(専門の検車係が運転差支えなしとした検車済の車輌について乗務員が更に欠陥ありとして乗務を拒否すること)なることを主張して電車の運行を阻害したこと、(4)昭和二十五年八月頃金沢市警察署よりの注意にもとずき被告会社が電車の扉を閉めて運転するようにとの注意に相当の理由もなく主導的立場に立つて反対したこと等を各認めることができる。以上は原告大垣が被告会社の経営権の行使に理由なく介入しその企業の円滑な運営を阻害したものと認めることができ、又同原告の行動よりして今後ともその危険が十分あると推認するに難くない。尤も証人松田啓作の証言及び原告大垣本人尋問の結果には右認定に反する部分があるが、遽に措信できず、未だ右認定を覆すには十分ではない。

(二)  原告東義雄について

前(一)項と同様の証拠及び成立に争ない乙第十六号証を綜合すると、(1)原告東が「レール」第十二号に「自動車工場に危機、井村の独裁つのる」と題して執筆し、被告会社の正当な経営権の行使の範疇に属するとみられる事実を不穏当な文言を以て井村社長の独裁であるとして非難していること、(2)昭和二十五年度夏期増送終夜運転(七月下旬丑の日の年中行事)の実施につき、組合の正当な機関を通じて為すなどの適式な方法によらずに夜食手当一人当り三百円の支給を要求し、然らざれば終夜運転を拒否すると主張し勝手にその旨の要求書を金沢支社営業部長宛に提出してその支給を迫つたこと、及び原告東らの右行動によつて被告会社が業務命令までも出さざるを得なかつたこと等を認めることができる。

以上は原告東が被告会社の経営権の行使に理由なく介入し被告会社の企業の円滑な運営を阻害したものと認めることができ、又同原告の行動よりして今後ともその危険が十分あると推認するに難くない。而して右認定に反する証人宮岸庄太郎及び原告東本人尋問の結果は遽に措信できない。

(三)  原告西田常吉について、

特に破壊主義的言動を以て被告会社の企業の円滑な運営を阻害し又はその虞れがあると認めるに足る適切な証拠はない。尤も証人見本、同渋谷の各証言には原告西田が金沢市上胡桃町変電所内で「レール」を就業時間中編集し、原告大垣とその編集を協議していたとの報告を受けたことがあるとの部分があるが、右証言によつて直ちに斯る事実を認定するに足りない。

原告らが孰れも日本共産党北鉄細胞機関紙「レール」「細胞ニユース」及び日本共産党北鉄細胞名義の「調停案の本質を見極め目的完遂のため闘いましよう」なるアヂビラ等を頒布したことは争がないが、他のこの頒布行為を目して被告会社の企業の円滑な運営を阻害する虞れがあると認めるに足るような証拠もないので斯る行為自体だけでは些細な共産党活動をしたに過ぎないといわねばならない。このことは成立に争ない甲第一号証の昭和二十五年九月二十七日被告会社と組合間に於て締結された労働協約第八十六条に「会社は就業時間中を除いては従業員の政治活動の自由を認める」とある趣旨に照らしても明かなところである。のみならず当裁判所の真正に成立したと認める乙第五号証及び成立に争ない乙第六号証によれば、日本共産党北鉄細胞機関紙「細胞ニユース」等には後示の一部のものを除いては概して激越な言辞を以て被告会社や政府を非難し、或は本件解雇をめぐる被告会社や地労委の態度を攻撃し、ストライキを強調するなどの記事のあることを認めることができるが、しかもまたこれら文書は孰れも昭和二十五年十月二十三日原告らを含む従業員十九名の解雇の発表がなされた後にこの解雇に対する抗争行為の一端として日本共産党北鉄細胞が発行したものであることを認めることができるのである。而して右の記事を詳細に検討してみるに、必ずしも右解雇の実施が発表されたことによつて通常誘発される抗争程度を著るしく超えたものとは認められないし、また解雇基準発表後の斯る事由を以て解雇基準に該当するかの判断の資料に供することも妥当でない。尤も「細胞ニユース」等の一部(「調停案の本質を見極め、目的完遂のために闘いましよう」等のアヂビラをも含む)には右解雇発表以前に日本共産党北鉄細胞又は日本共産党金沢地区委員会の名義で発行されているもののあることを認めることができるが、これら文書の内容自体から窺知できる当時の被告会社と組合又は従業員との間に生じて居つた特殊の事情(賃金要求、夏期手当要求等)及び社会的事情(マ書簡等に刺戟されて「レッドパーヂ」闘争が既に諸処に於て始まつていたこと)等を勘案すると必ずしもこれら文書の内容から原告らが直ちに被告会社の企業に危険を及ぼすものであると認めるに足らないばかりか、原告西田については右文書の発行編輯(頒布を除く)に責任があると認めるに足る事由もない(細胞員であるからといつて直ちに発行に責任ありとすることは相当でない)。

被告会社は原告らは組合事務所内に於て度々細胞会議又は細胞研究会なるものを開催し、共産党活動たる破壊主義的政策を協議したと主張する。而して乙第四号証(「レール」第四乃至第七号、第十二、第十三の各号)及び証人原俊道の証言を綜合すると、右会議等の開催されたこと及び原告らも普通の場合これら催に参加していたこと等を認めることができるが、これらの集会に於て原告らが会社の企業を破壊する方策について協議したと認めるに足る証拠はない。従つて組合が原告西田の解雇に同意していることは当事者間に争のないところであるが、この同意を捉えて同原告に企業阻害の行為又は虞れありと推断することは軽卒の誹を免れないであろう。

然らば原告西田に於て被告会社の企業を破壊する具体的な行動は認め得ないのであるから同原告に対する被告会社の為した解雇は同原告が共産主義者であることだけを理由にしたものと認めざるを得ない。

そこで前認定の如き各事由による解雇が原告ら主張の如き無効原因を有するか否かを判断する。

(一)  憲法第十四条、第十九条、第二十一条、従つてまた労働基準法第三条、労働協約第六条等に違反し、民法第九十条に該当するとの点について。

日本国憲法第十四条、第十九条、第二十一条に規定する国民の権利は憲法上これを保障せられ、私人間の法律関係については憲法が当然には関与するものではないが、右憲法の各条項によつて保障されている権利を不当に侵害するような趣旨の私法関係は民法第九十条に所謂「公ノ秩序又ハ善良ノ風俗」に反するものとして無効といわなければならない。而して憲法第十四条に所謂「信条」とは宗教上の信仰(宗教的信条)の外に思想上の主義(政治的信条)をも含むと解すべく、従つて使用者に於て労働者が共産主義者であるからとの理由で解雇したとすれば法の下の平等を明定した同条の精神に違背するし、また憲法第十九条が「思想の自由」を保障している精神にも違背するといわねばならず、いずれにしても斯る解雇の意思表示は公序良俗に反し無効と解すべきところ被告会社の原告西田に対する解雇は単に同原告が共産主義者であることのみを理由にしたものであること前認定の通りであるから同原告に対する被告会社の解雇の意思表示は公序良俗に反し無効といわねばならない。然しながら憲法第十四条にいう「信条」はあく迄も内心的な信条をいうものであつて、この信条に基ずく外部的言動に於て破壊的なものがあるときは最早や同条による保障の限りでないし、また同第十九条に保障する自由も人民の内心の自由のみを対象としていると解するを相当とするところ、原告大垣及び同東は破壊主義的言動をなし、その為に被告会社の企業の円滑な運営を阻害し、また阻害する虞れがあること及び被告会社は右原告らの斯る言動からその企業を防衛する為に右原告らを解雇したものであることは前示認定の通りであるから、この解雇は何ら憲法の右各条の精神に背馳するものではない。而して叙上の如き解釈論は労働基準法第三条(同条に所謂「労働条件」には解雇を含むと解することは相当である)についても妥当するところであるから、右原告らに対する解雇は何ら同条に背反するところはない。甲第一号証によれば労働協約第六条に「会社は従業員にたいし人種、信条、性別、門地、身分などを理由として差別的取扱をしない」との規定の存することが明かであるが、この協約条項もその文言自体からしても憲法第十四条及び労働基準法第三条の趣旨を出ずるものとは解し得ない。また憲法第二十一条に所謂「集会、結社及び言論、出版、その他一切の表現の自由及び通信の自由」は公共の福祉に反し得ないものであること憲法第十二条第十三条の規定上明白であるばかりでなく、自己の自由意思に基づく雇傭関係上の職務によつて制限を受けることのあるのは已むを得ないところである。

然らば被告会社の被傭者である原告大垣及び同東に既述の如く公共的性格を有する被告会社の企業を破壊する程度の言動がある以上、被告会社はこれを事由として解雇し得べく、同原告らが憲法第二十一条の保障を援用することは理由がないと認めなければならない。よつて被告会社の原告大垣及び同東に対し為した解雇の意思表示は公序良俗に反するところはない。

(二)  不当労動行為であるとの点について。

労働組合法第七条は憲法第二十八条の労働者の団結権、団体行動権の保障を受けた強行規定であると解せられるが故に、同条違反の解雇は無効であると解するを相当とする。而して原告大垣及び同東が北鉄労組の役員であつたこと及び従来組合の活溌な活動分子であつたことは当事者間に於て明かに争わざるところではあるが、これら原告が解雇されたのはその言動に於て破壊的なものがあり、被告会社の企業に危険であるとされたものであることは前示認定の通りであり、而もこれら原告の前認定のような言動が所謂「労働組合の正当な行為」の範疇に属さないことは各認定事実自体から明白であり、他にこの認定を覆えし被告会社の反組合的な差別待遇の意図を認めるに足る証拠はない。

然らば右原告らが解雇されたのは同原告らが北鉄労組の組合員であること、又は同労組の正当な行為をしたが故であるとして右解雇は不当労働行為になるとの原告らの主張は理由がない。

(三)  労働協約第六十九条の解雇協議協定違反であるとの点について。

労働協約第六十九条に所謂解雇協議協定として、「会社は従業員を解雇しようとするときはその基準、員数、条件等解雇の基本的事項について組合と協議しなければならない」と規定されていることは当事者に於て明かに争わざるところである。然るところ原告らは被告会社は本件解雇に当り右協議協定に違反し十分に協議を尽して居らない。殊に組合が被告会社に対し再三に亘り具体的解雇基準を摘示せよと要求したにも拘らずこれに応じなかつたから協議を尽したとはいえないと主張し、被告会社は之に対し具体的解雇基準を摘示しなかつたことは争わないが、組合が被告会社に於て示した抽象的な解雇基準(「人員整理実施要綱」に示す)に対してすら該当する者は皆無であるとして譲らず、余りにも非協力的であつたのでそれ以上基準該当の有無について判断の資料とした具体的事実を個々に示す必要がなかつたから示さなかつたに過ぎない。しかも組合は昭和二十五年十二月二日本件解雇を承認しているから協定違反の事実はないと主張する。そこで先ず右協議協定の趣旨につき按ずるに、右に所謂「基準、員数、条件等解雇の基本的事項について組合と協議しなければならない」とは具体的事案ごとに諸般の事情を斟酌した上で、使用者及び組合の双方が解雇基準、員数、条件等につき信義則上要求せられる程度の慎重審議を経ればよいと解するのが相当である。よつてこの見地から本件解雇の実施に至る経過をみるに、(1)被告会社が昭和二十五年十月二十日組合に対し「人員整理実施要綱」を示して、原告らを含む従業員十九名の解雇につき諒解を求めたが、組合は基準該当の具体的事実の摘示を要求したまま当日の団体交渉が打切られたこと、(2)組合が同年十月二十三日緊急委員会を開き本件の解雇問題に関する基本方針を決定し、之に基ずいて組合の回答書を被告会社側に手交し、重ねて右具体的事実の指摘を要求したが被告会社は之に応ぜず同日解雇の実施を該当従業員及び組合に通告したこと、(3)組合は同年十月二十四日地労委に調停の申立を為し、その後被告会社と組合との間に調停係属中は解雇の実施を保留することの諒解が成立したこと、(4)同年十一月二十五日地労委より出された調停案につき組合は同月三十日臨時大会を開催した結果右調停案を受諾すること及びこれに伴い組合としての闘争を終結することを決定したこと、(5)被告会社も右調停案を受諾したので調停案にもとずき交渉が開かれた結果、同年十二月二日双方に於て「本件解雇に関する覚書」が取り交されて交渉が妥結し、本件解雇が実施されたことはすべて当事者間に争がないのみならず、これら事実に更に成立に争ない乙第八号、第十号、第十三号の各証、第十四号証の二、第十五号証、証人内山光雄の証言から成立の認められる乙第十四号証の一及び証人内山光雄、同原俊道、同北敏の各証言を綜合して勘案するに、被告会社は本件解雇に当り組合と数回にわたり解雇基準員数条件等につき協議を遂げた結果、組合は昭和二十五年十二月二日本件の整理解雇の趣旨を全面的に諒解し、被解雇該当者で昭和二十五年十二月五日迄に退職願を提出しないものについては被告会社が同月二日附で解雇することを承諾していることを認めることができるのであるから被告会社は組合と信義則上要求せられる程度の審議を尽したものと認めなければならない。尤も本件解雇の具体的基準を摘示せよとの組合の再度の要求にも拘わらず被告会社が之に応じなかつたことは右認定の通りであるが、組合が結局解雇の実施に同意している事実が認められること前示の通りである以上、この要求に応じなかつた事実のみを捉えて協議協定違反の解雇だと原告が主張するのは失当であるといわなければならない。

叙上の通りであるから原告大垣及び同東に対する被告会社の解雇の意思表示は無効であるとの原告らの主張はいずれも理由がない。

次に原告らの賃金の支払請求について按ずるに、原告らの各賃金の割合が別紙目録(1)記載の通りであること、これら賃金は月給制であり、その支払期日は毎月二十五日であること、昭和二十六年一月以降の賃金の支払がないこと及び本件解雇通告のあつた昭和二十五年十二月二日以降原告らはいずれも被告会社の業務に就いていないことは孰れも当事者間に争がない。然るに原告らは、原告らが就労していないのは被告会社の不当な解雇及びこれに基ずく被告会社の就労拒否に因るものであるに過ぎず、これは専ら被告会社の責任に帰すべき事由によつて原告らの債務の履行ができないものであるからなお賃金請求権を有すると主張する。然しながら原告大垣及び同東に対する被告会社の為した解雇の意思表示は何ら不当なものではなく有効になされていること前認定の通りであるからその無効なることを前提とする右両原告らの賃金請求は明かに理由がなく、棄却を免れない。而して原告西田については解雇の意思表示の無効なること前認定の通りにして、之は被告会社の責に帰すべき事由に因つて履行を為すこと能わざるに至つたものということができ、他に当事者双方とも何らの主張も立証もしていないので、被告会社は昭和二十六年一月以降同原告に対し毎月合計六千六百三十円(固定給三千九百円、職能給千九百五十円、勤続給三百円、年令給四百八十円)の割合による賃金を支払う義務があるといわねばならないが、口頭弁論終結後期限の到来する部分の賃金請求は将来の給付を求める訴であるから、予め斯る請求を為す必要がなければならないと解すべきところ、被告会社が賃金の支払を拒否しているのは解雇が有効であるとの主観を前提にしているものであること弁論の全趣旨に照らし明白であるから、解雇を無効とする判決の確定があれば同原告を就労さすであろうし、従つてまた賃金の支払に容易に応ずるであろうと推認でき、その他に無効確認判決が確定した場合に於てもなお被告会社が賃金の支払をしないであろうと認めるに足る何らの証拠もない。よつて右将来給付を求める請求部分は予めこれを求める必要がないものといわねばならない。然らば被告会社は原告西田に対し昭和二十六年一月以降本件口頭弁論終結時たること記録上明白な昭和三十年十二月九日迄に於て既に期限の到来した合計五十九月分の賃金合計三十九万一千百七十円を支払う義務があるといわねばならず、この限度に於て原告西田の請求を認容することとし、爾余の分については之を棄却する。

更にまた原告らは被告会社に対し、(1)原告らを就労せしめよ、(2)労働条件につき従前の待遇を不利益に変更してはならないとの請求をしているのでこれらにつき按ずるに、原告らが本件解雇の意思表示の無効確認請求(これは結局右意思表示による解雇が法律上無効であるから原告らと被告会社間に現在なお従前の雇用関係が存在すること、即ち、原告らが現在もなお従前の労働条件に従つて被告会社に労務を供することによつてその対価として被告会社から賃金を受けるという労使関係上の地位の存在することの確認を求める趣旨である)を為すだけでなく、更に被告会社に対し就労を請求することは畢竟原告らが右請求に於て確認された被告会社の従業員たる地位に於て就労することによつてその対価たる賃金の支払を求めることに外ならないと解すべきところ、原告大垣及び同東については解雇が有効であること前認定の通りにして、既に被告会社の従業員たる地位を喪失しているので右請求は明かに理由がなく、また原告西田については被告会社において本件解雇を理由に同原告の就労を許容しないものである限り同原告は就労しなくとも被告会社はこれに対し賃金を支払う義務のあること前認定の通りであるから、特に就労を求める利益はないといわねばならない。次に右(2)の請求は被告会社に対し将来の不作為を求める給付の訴であると解し得ること。その趣旨自体から明白であるから予め斯る請求を為す必要がなければならないが、すべての証拠によるもその必要性が認められないのでこれまた棄却を免れ難い。

よつて原告西田に対する被告会社の為した解雇の意思表示の無効確認を求める請求及び昭和二十六年一月以降昭和三十年十一月に至る迄毎月六千六百三十円の割合による賃金の支払を求める部分の請求とは理由があるので之を認容することとし、原告西田の爾余の請求及び原告大垣、同東の各請求はいずれも失当として棄却することゝし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十三条を、仮執行の宣言については第百九十六条を各適用し、主文の通り判決した。

(裁判官 観田七郎 辻三雄 三井喜彦)

(別紙)

別紙目録(一)

氏名

摘要

東義雄

大垣倬一

西田常吉

固定給

三、九〇〇円

三、九〇〇円

三、九〇〇円

職能給

二、三〇〇円

二、二五〇円

一、九五〇円

勤続給

二五〇円

二〇〇円

三〇〇円

年令給

七二〇円

四〇〇円

四八〇円

家族給

なし

なし

なし

合計

七、一七〇円

六、七五〇円

六、六三〇円

備考

但しいずれも昭和二十六年一月現在の賃金月額

(毎月二十五日支払の月給)の割合を示す。

別紙目録(二)

総司令部二日特別発表

マッカーサー元帥は三日の憲法記念日にあたり日本国民にたいし次の声明を発した。

今日こゝにふたゝび新日本誕生の記念日を迎えた。三年前のこの日。日本国民は彼らに国家的災難をもたらした神話と伝説に根ざした伝統を強く振りすて、これに代る真理と現実に通ずる光明の途を選び、戦争の生んだ人的、物的破壊から立直るべく暗中摸索の前進を開始したのである。この実践を通じて日本国民は人間自由の精神的、物質的精華を探し求めてきた多くの人々が長年にわたつて進化させてきた倫理と道徳上変ることのない理念にその身をさゝげたのである。

日本国民はそれ以来今日に至る迄数年間にわたつて憲法にもられた教訓のワクの中で生活し、進歩することのきわだつた才能を示してきた。確立された代議制民主主義の規範の下における日本国民の政治的進歩、私的自由競争企業の広範な形体の下におけるその経済的進歩、戦争の結果としての破壊と絶望から脱していまや日本全土にみちみちている平和と安穏と希望をもたらした社会的進歩などは戦後の世界に明朗な影響を与えた。もしこれらの進歩がなかつたなら戦後の世界の困惑と混乱がもつとひどかつたであろう。

新憲法によつて与えられた権力の濫用を防ぐために確立された抑制、均衡は、日本の政治的再編と民主主義成長の期間を通じてよくその目的を果し、またその解釈と適用は社会的暴力の試練を経ることなく、大衆討議の方式あるいは確立された法的手続の下で平和的解決をもたらした。とりわけ主権が国民にあることによつてはじめて存在する各個人の政治的責任についての健全な自覚と承認が高まつてきたことが特筆される。こゝにこそ実に代議制民主主義の代表者であり、実践者としての日本の不断の進歩にたいする最善の保証があるのである。そして日本の行うところやがては全アジヤの諸国がこれに従うであろう。なぜならば日本の人権条例と、それから生れた社会的進歩の中に今日アジヤのもつ多数の病根の治療手段を人々は見出すだろうと思われるからである。もし日本がすでに定められた途を力強く賢明に前進するならばその途はやがて全アジヤの途ともなつてすべての人々の最終の目標である個人の自由と個人の尊厳へと導き、かくて日本の憲法は自由アジヤの大憲章(マグナ・カルタ)として歴史にその記録を止めることになろう。

政府権力の濫用にたいする抑制、均衡作用は、このように明白に十分ではあるものの、他国におけると同様日本にも人権条例によつて与えられた個人の自由の濫用にたいしてわずかに総括的でばくぜんとした憲法上の保護があるにすぎない。そしてまた他国におけると同様日本では自由を守るための防備におけるこの弱い点は、自由と特権を悪用して自由を破壊しようとねらつている少数の人々により間断なき圧迫下におかれている。しかしこの種少数派の圧迫がどんなものかは日本でも知られているので、日本国民はこの種の圧迫から起り得る恐るべき結果について前もつて警告されているのである。

なぜならば日本ではごく最近においてほんのわずかな少数派―当時の軍国主義者とその協力者―が日本国民を不可避な、そしてその実予見できた破滅に通ずる戦争に駆りたてたからである。ところが日本国民があの破滅的経験から立ち直るべくなお暗中摸索を続けている現在、この別の少数派が戦争のため生じた貧困がまだ回復していないのに乗じて国民の直感的な警戒心をマヒさせ、もつと大きな破滅に引入れようと企んでいる。すなわちかれらはこんどは正当な国家目的に奉仕するという仮面すらかなぐり捨て、日本を最終的には他国の政治的支配に屈従せしめるのに都合のよい国内的基礎をつくるという外国の指令に従つて行動しているのである。

終戦直後憲法の保護の下に特定の政治的、経済的、社会的理論の推進に専念するため一政党として結成された日本共産党は、当初は穏健に発足し、そのため一部の人々の支持を獲得した。しかしかれらはその地歩を固めようとするに当つてあらゆる共産主義運動のたどる道を進み、政治、社会活動において次第に激烈となり、やがて国民の反発をかい、その結果共産党は政治的には事実上勢力を失う状態に陥つた。ことに最近ではその粉碎された残存分子はこの失敗から生じた窮状を打破しようとして合法の仮面をかなぐり捨て、それに代つて公然と国際的略奪勢力の手先となり、外国の権力政策、帝国主義的目的および破壊的宣伝を遂行する役割を引受けたのである。

同党が破壊しようとしている国家および法律から同党がこれ以上の恩恵と保護を受ける権利があるかどうかの問題を提起し、さらに同党の活動を果してこれ以上憲法で認められた政治運動とみなすべきかどうかの疑問は平和的で法律の守られている社会に存在している一切の反社会的勢力に与えられていると同じ考慮ならびに保護を考慮して冷静に、公正に、かつ感情にとらわれずに解決されなければならない。「あらかじめ戒むるはあらかじめ備うるに等し」との格言はとくにこの場合適切である。なぜならば、日本共産党の同類である外国共産党の発展過程をみると、共産党運動の底に横たわる諸目的ならびに共産党が政権奪取に成功した諸国では同党が不可避的にどんなことを引起したかという結末がはつきり見とゞけられるからである。このように世界の他の民主主義諸国におけると同様、日本では共産党は労働階級の支持をうるための労働者の諸権利を守るチャンピオンを潜称しているものの、海外における実例は共産党の支配下では労働者は一切の権利を失うことを示している。どこでも同じであるように、日本でも共産党は言論および平和的な集会の自由、良心にもとずく信仰の自由その他普遍的に認められている基本的人権にもとずく諸自由の熱心な使徒であるかのごとく装つてはいるが、しかし事実は共産主義政治権力の台頭とともに一切の自由が完全に抑圧されていることは反論の余地ないまでに暴露されている。

事実過去の歴史をみると、共産主義の前進した後には必ず精神的真空状態が続いているが、この真空状態のなかでは未だかつて社会の安定が増大したり、社会主義が保持されたり、また社会進歩が依然として継続されたというためしは全くないのである。日本の共産主義は外国の共産主義運動の特徴に比較してより穏健な国内運動のコースを保つのではないかという見方があつたようだが、こうした見方は日本の共産党が今や公然と国外からの支配に屈服し、かつ人心をまどわし、人心を強圧するための虚偽と悪意にみちた煽動的宣伝を広く展開していること、さらに反日本的であるとゝもに日本国民の利益に反するような運動方針を公然と採用しているという事実によつて全く誤りであることが明らかとなつた。

こうしたかたちの国際的な政治的裏切行為、社会的な偽り、領土的詐術の線に同調し、かつ人間の自由を個人権力の障害としてこれを排除しようとする陰険かつ破壊的な企図をもちながらその企図をおゝいかくすもつともらしい体裁をつくろうためにあらゆる口説をろうして自己保身をはかりつゝ基本的人権を具とする便宜主義と手を握ろうとするのがこれらの連中のやり方であつて、その説く熱弁以上に偽善的な議論のないことは経験という偉大な教師が明らかに示すとおりである。たゞ不幸なことにはあらゆる社会においてこの共産主義は本来善良な市民でありながらも精神的に異常で失意の状態にあり、だまされやすく無知な人々の間にある程度の帰依者を獲得するものであり、またそのいかにも尊厳らしい装いのために一見責任ある運動のかたちをとり、そのまわりには民主的自由に固有の弱点をどこまでも食い物にしようとする不法分子が集つてくるものなのである。これが悲劇なのだ。あらゆる自由な国民は社会の漸進的改善を合憲的に主張する特権を与えられているが、共産主義はそうした目的を追及しているという浅薄な見せかけをしているだけで本質的にはこれを全然問題にしていない。その戦術は政治権力獲得に有利な地盤を築くための手段として社会、人心の不安をひき起すことだけに限られている。その圧力は決して一国内やある地域内に局限されてはいない。それは共産党の政策、戦術が国際的規模において高度の中央集権的支配、調整をうけているので、世界の個々の自由な地域にその破壊的攻撃力を全面的に注ごうと思う場合、共産主義圏内の主要都市からこれを随意に行うことができるからだ。共産党はこの調整された力を残忍卑劣に行使し、近代文明を守る精神的要素をそのもつ弱点を手当り次第に食い物とすることによつて減殺しようとする。したがつて現在日本が急速に解決を迫られている問題は、全世界の他の諸国と同様この反社会的勢力をどのような方法で国内的に処理し、個人の自由の合法的行使を阻害せずに国家の福祉を危くするこうした自由の濫用を阻止するかにある。

今日まで世界各国と同様、日本でも選挙場で示される目覚めた国民世論の反撃力に信頼がおかれてきている。選挙場では国民がすべての候補地のもつ責任についてその判断を下す当然の機会をかちうるからだ。しかしこうした防衞手段は無法で無責任な指導者が合憲的方法を通じて現われるという危険を阻止するのに役立つものであるが、一方自由の濫用の結果、こうした指導者が脅迫と力づくによつて現われるのに都合のよい無法、無秩序の条件が生れてくるという危険にたいしては十分に有効な防衞手段ではないのである。

したがつて問題は明々白々である。いかに基本的人権がそれ自体を破壊する具となることなく侵害されずに行使できるかということである。これこそ全自由民の当面する問題があつて、理想を盲目的に追うのあまり現実に存在する危険を見出さなかつたゝめ自らの自由を失つた人々のあつたことをあらかじめ警告するものである。自己の個人的自由を解除されることなく維持し、また行使することは全自由人の普遍的願望であるが、こゝに自由そのものゝ存在をおびやかすことなしには無視することのできないあらゆる遵法社会に投げかけられた問題がある。私はこんご起る事件がこの種の陰険な攻撃の破壊的潜在性にたいして公共の福祉を守りとおすために日本において断固たる措置をとる必要を予測させるようなものであれば日本国民は憲法の尊厳を失墜することなく英知と沈着と正義とをもつてこれに対することを固く信じて疑わない。

朝日新聞昭和二十五年(一九五〇年)五月三日(水曜日)第二三〇五五号(日刊)

別紙目録(三)

拜啓

占領軍においては、日本国民に対してボツダム宣言に基くかれらの義務の履行について助力することをもつてその根本的な目的の一としてきた次第であるが、これらの義務の最も重要なものとして、平和的な傾向をもち且つ責任のある政府の堅実な基盤となり得るような、平和と安全と正義の新秩序を日本に建設することが要求されている。この目的のために、日本政府はポツダム宣言の中で「日本国国民の間における民主主義的傾向の強化に対する一切の障害を除去」するように明確に指示されているのである。

右の要求は、極東委員会によつて決定され、指令された連合国の政策の基本的な目的の一となつたのであるが、これを履行するために日本政府の機構が再編され、その法令や制度が非民主的な場合にはこれが改正され、また閲歴から見て引続き勢力を持たせると民主主義的な発展を害する虞のある人物は日本の公の職務から罷免され、排除されたのである。

占領のこの段階における指導原理は保護的なものであつて、懲罰的なものではなかつた。その目的及び効果は、日本を民主化するについての連合国の政策の意図するところが反民主主義的分子の影響と圧力とによつて妨げられないように保障を設けることであつた。その適用範囲は、大体においてその地位や勢力からして征服と搾取の冒険となつてあらわれた日本の全体主義的政策に対して責任のある人物を対象とするものであつた。然るに最近に至つて新らしい、そしてこれに劣らず有害な集団が日本の政界にあらわれたが、この集団は真理を歪曲し、大衆の暴力行為を煽動しこの平穏な国を無秩序と闘争の場所に変え、これをもつて代議民主主義の途上における日本の著しい進歩を阻止する手段としようとし、また日本国民の間に急速に成長しつゝある民主主義的傾向を破壊しようとしてきた。

かれらは同じ意図をもつて法令に基く権威に反抗し、法令に基く手続を軽視し、そして虚偽で、煽動的な言説やその他の破壊的手段を用い、その結果として起る公衆の混乱を利用してついには暴力をもつて日本の立憲政治を転覆するのに都合のよい状態を作り出すような社会不安をひき起そうと企てている。かれらの強圧的な方法は過去における軍国主義的指導者が日本国民をあざむき過誤を犯させたところの方法と非常によく似ている。無法状態をひき起させるこの煽動を抑制しないでこのまゝ放置することは、現在ではまだ萠芽に過ぎないように思われるにしても、ついには連合国が従来発表して来た政策の目的と意図を直接に否定して日本の民主主義的な諸制度を抹殺し、その政治的独立の機会を失わせ、そして日本民族を破滅させる危険を冒すことになるであろう。

従つて、私は日本政府に対して日本共産党中央委員会の全員を構成する左記の者を公職から罷免し、排除し、かれらをして一九四六年一月四日附の私の指令(スキヤピン五四八及び五五〇)並びにこれを施行するための命令に基く禁止、制限並びに義務に服せしめるために必要な行政上の措置をとるように指令する。

袴田里見、長谷川浩、伊藤憲一、伊藤律、亀山幸三、神山茂夫、春日正一、春日庄次郎、紺野与次郎、岸本茂雄、蔵原惟人、松本一三、松本三益、宮本顕治、野坂竜、野坂参三、佐藤佐藤次、志田重男、志賀義雄、白川晴一、高倉輝、竹中恆三郎、徳田球一、遠坂寛

一九五〇六月六日 敬具

ダグラス・マッカーサー

内閣総理大臣 吉田茂殿

(昭和二十五年六月六日官報号外第五十八号所載)

別紙目録(四)

拜啓

日本における代議民主政治が何事も十分に承知し、また公然と討議するという自由な雰囲気のうちに発展する機会を待つようにするために、真に自由で責任のある新聞の発達を奨励し援助することが、占領軍の準則である連合国の諸政策のうちで最も根本的なものの一であつた。

この趣旨の達成を促進するために、検閲は漸次廃止され、ついに二年前には最終的に停止され、ここに新聞は自己の責任において自由に記事を掲載し得ることとなり、たゞ米国新聞編輯者協会の新聞綱領にならつた原則と倫理を定め、これに軍事上の安全のために必要な最少限度の制限を補足したところの新聞綱領に従うに過ぎないこととなつた。

日本の新聞は全体として右の要請に対して見事な態度でこれに応じ、そして海外から日本に来訪する新聞人が非常に好意のある賞讚の言葉をもらす程の責任感をもつようになつて来た。

ただ著しい例外は共産党の機関紙赤旗である。この新聞は相当の期間に亘つて共産党内部の最も過激な無法分子の代弁者の役割を引受けて来た。そしてこのような代弁者として法令に基く権威に対する反抗を挑発し、経済復興の進捗を破壊し、社会不安と大衆の暴力行為を引起そうと企てて無責任な感情に訴える放縦で虚偽で煽動的で挑発的な言説をもつてその記事面や社説欄を冒涜して来た。これらのこと一切に対しては公安を確保するために即刻是正的措置をとることを必要とする。

このような是正的措置の一つの方法はこの新聞を停刊し、その宣伝能力及び暴力と革命との不断の煽動を永久に破壊することであろう。

他の方法はこの新聞が掲載しようとする材料の一切に対する事前検閲を復活することであろう。

しかし、この二つの方法はいずれも日本における新聞の自由の発達の指針となつてきた広大な指導原理に反するものとして私にとつては好ましくないものであり、他の手段を試みて效果のなかつた場合にのみ実施すべきものである。

よつて私は、残された是正方法として日本政府がこの新聞の内容に関する方針に対して責任を分担している左記の者を、一九五〇年六月六日附の私の貴官宛書簡のうちにさらに加えるために必要な行政上の措置をとるように指令する。

相川春喜、姉歯三郎、青山敏夫、川村辰男、聴濤克巳、宮本太郎、守屋典郎、西澤富夫、岡本正、坂野善郎、島田小市、吹田秀三、菅間正朔、高橋克之、武井武夫、竹本賢三、内野壮児

一九五〇年六月七日 敬具

ダクラス・マッカーサー

内閣総理大臣 吉田茂殿

(昭和二十五年六月七日官報第六十一号所載)

別紙目録(五)

裁判所時報 第六十三号(昭和二十五年八月一日発行)

アカハタ発行停止に関する一九五〇年六月二十六日付連合国最高司令官の吉田首相宛書簡(訳文)

拜啓

六月七日付の貴官あて書簡で、私は共産党機関紙アカハタの編しゆう方針に対し責任を分担すべき人物として右書簡に掲げた者を、右書簡に示した理由に基き一九四六年一月四日の私の指令及びこれを施行する諸命令の定める禁止、制限並びに義務に服せしめることを指令した。この措置をとるに当つて私はその結果として現われる新しい指導者によつて同紙が比較的穏健な方向に方針を改め、真実を尊重し、無法状態や暴力をせん動的にそそのかすことをさけるようになることを希望した。しかしその後今日までの同紙を検討すると、この希望は実現されなかつたことが分るのである。

さらに最近の同紙は朝鮮の事態を論ずるに当つて真実をわい曲し、これによつて同紙が日本の政党の合法的な機関紙ではなく、日本国民の間に、特に今回は日本にいる多数の朝鮮人の間に人心をかく乱して公共の安寧と福祉とを侵害することを目的とした、悪意のある虚偽のせん動な宣伝を広めるために用いられる国外の破壊勢力の道具であるという事実を証明している。この種のせん動的行為は平和的で民主的な社会では黙認しておくわけにはいかないであろう。

よつて私は日本政府がアカハタの発行を三十日間停止させるために必要な措置をとることを指令する。その後において同紙が存続の権利をもつか否かは同紙が日本の自由な、責任のある新聞界において責任のある地位に達し得るか否かによるものである。

一九五〇年六月二十六日

ダグラス・マッカーサー

内閣総理大臣 吉田茂殿

別紙目録(六)

裁判所時報 第六十三号所載(昭和二十五年八月一日発行)

昭和二十五年七月十八日附吉田内閣総理大臣あて連合国軍最高司令官書簡(訳文)

拜啓

虚偽、煽動的、破壊的な共産主義者の宣伝の播布を阻止する目的をもつた私の六月二十六日付貴下あて書簡以来、日本共産党が公然と連繋している国際勢力は民主主義社会における平和の維持と法の支配の尊厳に対して更に陰険な脅威を与えるに至り暴力によつて自由を抑圧する彼等の目的について至る所の自由な人民に対し警告を与えている。

かゝる情勢下においては日本においてこれを信奉する少数者がかゝる目的のために宣伝を播布するため公用報道機関を自由、且つ無制限に使用することは新聞の自由の概念の悪用であり、これを許すことは公的責任に忠実な自由な日本の報道機関の大部分のものを危険に陥れ、且つ一般国民の福祉を危くするものであることが明かとなつた。

現在自由な世界の諸力を結集しつゝある偉大な闘においては総ての分野のものはこれに伴う責任を分担し、かつ誠実に遂行しなければならない。

かゝる責任の中、公共的報道機関が担う責任程大きなものはない。

何故なら、こゝには真実を報道し、この真実に基いて事情に通じ、啓発された世論をつくりあげる全責任があるからである。歴史は自由な新聞がこの責任を遂行しなかつた場合必ず自ら死滅を招いたことを記録している。

私は共産主義者の宣伝が責任を自覚した日本国民大衆に与えるかもしれない破壊的な影響については憂慮してはいない。

蓋し日本国民大衆が正義と公正の目的に献身し、共産主義の偽善の仮面を見破る能力を有することを既に充分に立証して来ているからである。

しかし乍ら現実の諸事件は共産主義が公共の報道機関を利用して破壊的暴力的綱領を宣伝し、無責任、不法の少数分子を煽動して法に背き秩序を乱し公共の福祉を損わしめる危険が明白なることを警告している。それ故日本において共産主義が言論の自由を濫用して斯る無秩序への煽動を続ける限り彼らに公的報道の自由を使用させることは公共の利益のため拒否されねばならない。

依つて私は日本政府に対し先の私の書簡の実施のために現在とられている措置を引続き強力に実施し、日本国内において煽動的な共産主義者の宣伝の播布に当つて来たアカハタ及びその後継紙並びに同類紙の発行に対し課せられた停刊措置を無期限に継続することを指令する。 敬具

ダグラス・マッカーサー

吉田内閣総理大臣殿

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